近年、肥満患者の増加に伴い、麻酔管理の難易度が上がってきています。特に高度肥満(BMI35以上)の患者では、麻酔導入から抜管まで、各ステップで特有のリスクがあるため、事前準備と対応が非常に重要になります。
この記事では、麻酔科医が知っておきたい「肥満患者の麻酔管理のポイント」を、導入前・導入時・術中・術後に分けてわかりやすく解説します。
目次
導入前の準備:気道確保が困難である場合を想定した準備
肥満患者では、まず「気道確保が困難である」という前提で準備を進めます。体位はランプポジションや頭高位にすると、上気道が開きやすくなり、酸素化の効果も上がります。いつもに加えて、追加の準備をしておきましょう〜。
- DAMカート(ビデオ喉頭鏡、声門上器具、ファイバーなど)
- 応援の麻酔科医
- 十分な酸素投与:マスクまたはHFNC
呼吸停止からの脱飽和が非常に速いため、酸素予備能を最大限に高めておくことが何より大切です。
プレオキシジェネーションと気道確保の工夫
導入前には、脱窒素化(プレオキシジェネーション)を確実に行います。
- 酸素10L/分以上でマスク密着
- 深呼吸を8~10回、または自然呼吸で3〜5分
- HFNC併用で呼吸停止後も酸素供給が可能
モニター上では、呼気終末酸素濃度(EtO₂)を90%以上に上げることが目標です。 睡眠時無呼吸症候群の合併も多く、必要に応じて意識下でのファイバー挿管も選択肢となります。
誤嚥リスクへの配慮
肥満患者は胃液量が多く、pHも低め。さらに食道裂孔ヘルニアや腹腔内圧の亢進があると、誤嚥リスクが増加します。導入時はできるだけ頭高位を維持し、迅速・確実な気道確保を行いましょう。
術中管理:呼吸・循環それぞれ何に注意しましょう〜
循環管理
高血圧、虚血性心疾患、DVTなどの合併率が高く、肺塞栓や心不全に注意が必要です。
呼吸管理
腹腔鏡手術や頭低位では無気肺が起こりやすいため、以下が有効です。
- PEEPの付加
- 肺リクルートメント手技の併用
麻酔薬の投与量:体重でどう使い分ける?
肥満患者では薬剤の分布や代謝への影響を考慮し、以下を参考に薬剤の投与量を決めます。
薬剤名 | 投与基準 | 備考 |
---|---|---|
プロポフォール | 導入:実体重 維持:理想体重 | 脂溶性。導入は分布容積に応じて多め |
ロクロニウム | 理想体重(施設により実体重) | アナフィラキシーに注意 |
スガマデクス | 理想体重 | 水溶性。筋弛緩モニターで確認 |
理想体重の計算式(男性):
50 + 0.91 ×(身長cm − 152.4)
例)170cm → 約66kg
術後管理:確実な覚醒と早期離床
抜管は完全に覚醒した状態で、頭高位にて行うのが原則。鎮痛が不十分だと呼吸が浅くなるため、以下を積極的に利用します。
- 硬膜外麻酔
- 末梢神経ブロック
また、早期離床とリハビリが呼吸・循環合併症の予防に繋がります。
まとめ
肥満患者の麻酔管理は、導入前からすでに勝負が始まっています。 十分な酸素化、気道確保困難への備え、術中の肺管理、薬剤の用量調整、そして術後の抜管・鎮痛と、すべての段階で「いつも以上の配慮」が必要です。

ぜひ、日々の臨床や教育の現場で役立ててください‼️